社長の仕事ってなんですか?

社長は会社の顔であるというように、対外的な仕事だけでなく、社内の内政化も大切な仕事です。では、どのような仕事が本来の社長の仕事なのかお話ししていきたいと思います。

どんな社長がリーダーとしてふさわしいのか?

どんな社長がリーダーとしてふさわしいか、長年一つの会社に勤め、管理職として経営陣にも直接接触してきた立場と、仕事柄多くの経営者ともお付き合いさせて頂いた立場から感じたことを述べさせていただきます。

会社は、ざっくり言うと、経済活動によって資本を増やし、増やした資本を分配して経営者と従業員が生活を営めるようにすることを第一の目的としています。ですから、社長に求められる資質として、資本が増えるような経済活動を実現できることがまず大事です。

そして、「人はパンのみにて生きるにあらず」と言うように、社員・従業員は給料だけもらえれば他はどうでもよいというわけではなく、仕事のやりがいや職場での人間関係、上司の評価などによって幸福感を左右されます。社長の力だけですべてが解決するわけではありませんが、社長の姿勢が管理職のあり方にも影響します。ですから、社長には、社員・従業員のやりがいや人生を気遣い、組織全体の雰囲気にも気を配る姿勢が必要となってきます。

また、会社の活動や世の中ともリンクしていきます。自分や自分の会社さえもうかればよいという考え方ややり方は世間から歓迎されません。会社が世間とどう関わっていくか、世のため人のために何ができるかを考える社長が世間から尊敬され、従業員にとっても誇りとなり目標・手本となります。そういう意味で、人間として社員に範を示す役割も社長には求められます。

このように、会社の経済活動(経営力)、社員・従業員への気配り、社会性――などの観点をバランスよく満足させるリーダーが理想の社長像の一つではないかと考えられます。

ついていけばもうかる

NHKの朝の連続テレビ小説で「あさが来た」というドラマがありました。江戸から明治に移行する時代に諸大名が没落していく過程で、大名への貸付金や売掛金が焦げつぎ、江戸時代に繁栄を誇った豪商・両替商が次々と廃業に追い込まれていくなか、老舗の両替商に嫁いだ主人公のあさは周囲の反対を押し切り、炭鉱事業に乗り出します。あさが幾多の困難を乗り越えて新規事業である炭鉱経営を軌道に乗せた結果、店は廃業を免れ、やがて銀行や生命保険といった新たな時代の金融業に衣替えしていきます。

江戸時代の大阪の豪商・加島屋の窮地を救い、今に続く大同生命保険の創業に携わった広岡浅子さんをモデルにしたドラマですが、従来路線にとらわれず企業を新しい方向に導き、従業員の生活を救った主人公あさの判断力や経営センスは社長に求められる第一の資質です。

日産自動車の経営危機を救ったカルロス・ゴーン氏も、従来の経営陣が踏み込めなかった経営の抜本的改革を、部門別にチーム編成した社員たちと一緒に断行しました。加島屋にしろ日産にしろ、社長や社長に近い経営者の判断力が会社の行方を決めました。

中小企業白書2011によると、起業後約10年で3割、20年で約5割の起業がなくなっています。弱肉強食の世界や時代の変化の中で、一つの企業が長く生き残っていくのは容易ではなく、「この人についていけばもうかる」というカリスマ性を持った社長を従業員のだれもが求めています。

交流会に出て人脈を広げる?

「この人についていけばもうかる」。どうしたらそういう経営センスを磨けるのか。それには、愚直ですが、社長がまず努力・勉強を重ねるしかありません。

京セラや第二電電(現KDDI)を創業した稲盛和夫氏は「稲盛経営12ヶ条」として、事業の目的・意義を明確にする▽具体的な目標を立てる▽強烈な願望を心に抱く▽誰にも負けない努力をする▽売り上げを最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える▽値決めは経営▽経営は強い意志で決まる▽燃える闘魂▽勇気をもって事にあたる▽常に創造的な仕事をする▽思いやりの心で誠実に▽常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で経営する――と経営者の心構えを具体的に説いています。大きな成功を収めた経営者の言葉として大いに学ぶべきものがあります。

社長として、成功した先人や他の経営者に学ぶことは大変大事です。稲盛氏ほどの人にはなかなか会えなくても、社長が身の回りで尊敬できる人や学ぶべき人に会い、その人たちから経営姿勢や人間としての生き方を吸収していくことは経営の役に立ちます。

その一環として、交流会に出ることも一つの手法です。経営の役に立ちそうなセミナーや講演会、交流会などが世の中にたくさんあります。社長がセミナーや交流会などに参加することは、見識を広げ知識を高め、人脈を広げていくことにつながります。社長自らが営業先・取引先・提携先を開拓するための手がかりにもなりますし、多くの人や企業とつながっていることが財産になります。質のよいセミナーや交流会があれば、社長は積極的に参加することをお勧めします。

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現場を知り、従業員の心を知る

しかし、社長がいくら見識を高め人脈を広げても、自社の生産・営業・販売など現場の実情や感覚を知らず的の外れた陣頭指揮をしていては、従業員から十分に受け入れられません。かつて最大約2万7000店を擁して松下電器(現パナソニック)の躍進を支えた「ナショナルショップ網」の構築には、創業者である松下幸之助氏自身が営業の先頭に立ち続けたことが大きく寄与しています。幸之助氏は会長に退いた後でも、社の苦境に際して営業本部長代行を兼務し、再びセールスの現場で陣頭指揮を執っています。このように現場を知り、現場の苦労を理解できるリーダーが、従業員にとっても会社にとっても貴重な存在となります。

社長が現場を知るということは、現場を支える従業員たちの評価を適正に行うことにつながり、従業員の士気を高めます。ふたたび松下電器を例にとりましょう。昭和40年代、現場の技術者たちが完成させた業務用大型炊飯器の試作品が役員会議で紹介されましたが、役員達の反応はあまり前向きではありませんでした。その後、昼食として弁当が配られ、その炊飯器で炊いたご飯が出されました。そのご飯を食べた役員の中で一人だけお代わりをした人がいました。それが幸之助氏で、「この炊飯器のご飯、おいしいな。お代わりを」と技術者に語りかけたそうです。

幸之助氏のこのひと言が、技術者たちにとってどれだけ励ましになり、喜びになったかははかり知れません。創業から自分自身が苦労を重ね、現場の思いをだれよりもよく知る経営者だからこそ、従業員(技術者たち)の苦労に敬意を払うことができ、その心を思いやることができたのでしょう。

接待が増えるのは仕方がない?

現場を知る社長ほど、営業や取引先との交渉に自分自身も積極的に関わり、顧客や取引先との関係を構築していくケースがあります。部下が取引を概ねまとめた場合でも、最後は社長が交渉しなければならない場面もしばしばあります。また、交渉のためだけではなく、社長同士が人と人として交わり、信頼を深めることが、会社同士の信頼関係を醸成していく上でも重要です。

このように社長が会社のために外部との接触を繰り返す中には、飲食を伴う会合、つまり接待が増えていくのもやむを得ません。お酒の飲めない社長も中にはいると思います。しかし、一緒に食事を楽しんで仲良くなろう、場を盛り上げよう、という気持ちさえあれば、程度の差こそあれ信頼関係は必ず生まれます。接待も社長の大事な仕事の一つと言えるでしょう。

見きわめる力

現場を知り、自分自身も頻繁に外部と接触して取引の難しさをよく知る社長ほど、従業員の成果や力量を正しく判断することができます。逆に、自分自身に現場経験や実績が少ない社長は従業員の力量よりも自分がその従業員を好きか嫌いかで成績を評価してしまう傾向があります。これではまじめに働く従業員がばかをみます。そのような組織が大きく発展する可能性は残念ながら低いと言えましょう。

稲盛和夫氏は「経営に権謀術数は一切不要」と断言しています。人間として正しいやり方を貫けば運命は開けてくるとの考えに基づきます。同じように、従業員が出世するためにも権謀術数は一切不要であるべきです。会社のためを思って働いた人、その結果として実績を上げた人が適正に評価される会社の方が、間違いなく強い会社になります。

こうした健全な会社を作るためには、社長を始め経営者が現場をよく知り、従業員の努力や成果を正しく見きわめる力をつけるべきです。自分に現場経験が少ない場合には、実績のある人や部下の尊敬を集めている人、取引先から信頼されている人などの意見に謙虚に耳を傾けることが大事になります。

部下を公平公正に評価・処遇できない社長のもとでは、幹部も部下も会社や顧客の役に立つことを考えるよりも自分の保身や出世を最優先するようになります。そうなると、組織の活力は失われ、会社は衰退していきます。

社員を監視する?

社長がいくら立派でも、働きの悪い部下はいます。優秀な人が集まっているはずの一流企業にも中央官庁にも、上司から見て働きぶりが振るわない部下は必ず一定割合います。中には経費を無駄づかいしたり、勤務中に私用をしたりする従業員もいます。社長はこういう部下を監視すべきでしょうか?

中間管理職が手薄な場合、社員・従業員の指導を社長がある程度分担する必要もあるでしょう。ただ、昔のように「上意下達」や「上司の命令は絶対」という従業員の精神文化は希薄になり、昔と比べ従業員の立場が強くなりました。また、終身雇用も絶対多数ではなくなり、今の若い人は気に入らないことがあれば簡単に退職してしまうので、経営者が人材確保に苦労する世の中になりました。

そんな中、社長が社員を監視ないし教育する場合にも、一定の配慮やノウハウが求められるようになりました。こうしたノウハウを、セミナーや交流会などで情報を収集・交換したり、コンサルタント会社に相談したりして培っていく必要もあります。

また、ガバナンスの改善には、時には外部の力を借りる手法もあります。例えば、飛行機で出張する際、同じ便に乗ってもどのチケットを選ぶかで運賃は2倍も3倍も違ってきます。スカイマークなどの格安航空券を使ったり、JALやANAでも早割を使ったり、あるいはビジネス用のパック商品を使ったりすれば、出張費がぐっと下がるのに、自分のマイレージやクレジットカードのポイントを貯めたいがために高い航空券を買う社員もいます。そういう社員には注意したいものですが、下手に注意して「社長はせこい」と噂を立てられても困ります。そんなとき、出張手配のアウトソーシング会社(大阪市のアリーズカンパニーなど)に航空券の手配を委託すれば、社員はその会社を通じて航空券を手配し、その際になるべくリーズナブルな航空券をあっせんしてもらえる仕組みになります。社員の管理が難しい時代なので、このように社外のシステムを利用してガバナンスを高めていく手法も選択肢の一つとして持っておきたいものです。

部下を思う力

社員を監視したり中間管理職や外部の力を借りてコントロールしたりすることも会社のガバナンスを保つ上では必要な場合があります。しかし、それだけでは社員はついてきません。現場を知り、従業員の気持ちを理解した松下幸之助氏の例を挙げましたが、社員の気持ちを理解・尊重して接する上司にこそ、社員はついてきます。

口で言うのは簡単で、実行はなかなか難しいことではあります。社長の思いやりが部下に伝わらないケースもあるでしょう。それでも、社長が従業員の人生や生活、やりがいに関心を持ち、自分なりの誠実さで接していけば、多くの社員が社長を多かれ少なかれ慕い、雰囲気のよい職場になっていくと思います。部下を変えるよりも自分が先に変わる方が簡単です。その方が部下も早く変わっていくそうです。

私の尊敬する大阪市内のある税理士法人の所長は「廣福(こう・ふく)」という言葉を企業理念としています。福を創造し、その福を社会に広げていくという意味で、所員全員が顧客の幸せに貢献できるようにという思いを込めています。そして、所員が顧客の幸せを思うためには、自分の幸せを思ってくれる上司や所長の存在が欠かせません。この所長は約60人いる所員一人一人に気配りし、面倒見のよいことで部下の信望を集めています。私は何度もこの法人を訪れたことがありますが、所長から受けた気配りを所員が顧客に還元していく、そういう善循環を感じさせるオフィスとなっています。

会社の顔としての役割

社長には企業の顔としての役割もあります。成功した社長の多くが社会に利益の一部を還元し、市民生活や学術・文化・芸術の発展などに寄与しています。社長や会社が社会貢献をすることは会社にとっても名誉ですし、社員もその会社に勤めることを誇りに感じることができます。

また、成功した社長の多くは立派な経営理念や人生訓を持ち、人としても社員の手本になっています。社長が、営利活動における成功だけではなく、社会貢献や人柄の面でも世間から尊敬されていれば、社員としても心強く感じますし、社長を見習って自分も一流になろうと士気が高まります。社長には、このように会社の顔、社員の範としての役割があります。

まとめ

会社というものが利益を生み出すための組織である以上、社長には、「この社長についていけばもうかる」と社員から信頼されるような経営力が何と言っても必要です。仮に今はまだ十分な経営力がなくても、それを身に付けるために、勉強したり交流したり現場を知ろうと心がけたりするなど、不断の努力が求められるでしょう。

また、社員が人生の大半の時間を過ごす会社で生きがいややりがいを感じられるよう、社員に関心を持ち、社員を気遣う姿勢が欠かせません。それは単に社員のためになるだけでなく、社長が社員を気遣うことで、社員が顧客を気遣うようになっていきます。

そして、社長が公共心を持って社会と建設的にリンクしていくことで会社も社長も世間一般から尊敬されるようになり、人間として社員の手本となっていけます。

利潤獲得力、従業員への気配り、社会性を兼ね備えた社長。そんなリーダーが会社にいれば、社員・従業員にも取引先・顧客にもきっと大きな福が広がっていくことでしょう。