覚えておきたい経営分析の指標

「経営分析」は会社の健康診断です。経営分析によって会社の経営状態や資金繰りの状況などを点検し、経営が悪化しないよう事前に対処することが大切です。経営分析とそれに基づく対処ができていれば、経済情勢の変化による影響も最小限に食い止めることができます。

会社の売上や利益、資産状況と各種経営指標を日ごろから把握しておきましょう。「経営指標」でも一部紹介しましたが、今回は企業の経営状態を分析するための指標をより多角的に紹介します。

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1.収益性分析

企業は資本を活用して商品・製品・サービスを生み出し、外部との取引で売上を達成して利益を得ます。収益性分析とは、企業の資本や売上に対しどれだけ利益を上げられているか(=稼ぐ力)を見るもので、資本に対して利益をみる分析を「資本収益性分析」、取引に対して利益を見る分析を「取引収益性分析」といいます。それでは、収益性分析の指標を見ていきましょう。

■総資本経常利益率(ROA)……高いほどよい

総資本経常利益率(%)= 経常利益 ÷ 総資本 × 100

総資本経常利益率(ROA: Return On Assets)は経営分析に使われる代表的な指標です。総資本(総資産)をいかに有効に活用して利益を上げているかを示し、株主資本だけでなく負債総額についても考慮しています。

「総資本」とは損益計算書の「負債・純資産合計」=「資産合計」で、「総資産」とも言います。総資本経常利益率は元手(総資本)に対してどれだけの経常利益を得ることができたかという指標で、この数値が高いほど収益性が高いということです。

総資本経常利益率は、会社が調達・運用しているすべての資本をもとに財務活動を含む正常な経営活動から得られる「経常利益」をどれぐらい稼ぎ出したかを示しており、経営状態を表す総合指標と言われています。

総資本経常利益率の適正値は5%前後とされています。仮に総資本経常利益率が1%未満であれば、元手(資本)をほとんど増やせていないということです。総資本を銀行に預けた場合の利息より総資本経常利益率が低い場合、資本を増やす(利益を生み出す)という点においては、会社を経営する意味がないということになります。ただ、すべての経営指標に言えることですが、適正値は業種や会社の規模によっても違ってきます。

■自己資本当期利益率(ROE)……高いほどよい

自己資本当期純利益率(%)= 当期純利益 ÷ 自己資本(株主総資本) × 100

自己資本当期純利益率( ROE:Return On Equity )は自己資本に対する当期純利益の割合を示し、株主の視点からの収益分析に役立ちます。株主の出資(株主資本)から配当(=出資への見返り)の原資となる当期純利益をどれだけ稼ぎ出したかを示す数値です。投資価値を判断する際に重視される指標の一つです。株主が投下した資本で生み出した利益率を知ることができ、数値が高いほど資本を効率よく運用できているということになります。

■売上高総利益率……高いほどよい

売上高総利益率(%) = 売上総利益 ÷ 売上高 × 100

「粗利率」とも呼ばれます。売上総利益(売上高-売上原価)は商品力を反映します。それを売上高で割った「売上高総利益率」が高ければ、取り扱っている商品・製品の収益力が大きいということになります。

■売上高営業利益率……高いほどよい

売上高営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 売上高 × 100

営業利益(売上総利益から販売費や一般管理費を差し引いた数値)は営業力を反映します。例えば、A社の売上が1億円で営業利益が2000万円、B社の売上は同じ1億円で営業利益は3000万円だったとします。この場合、売上高営業利益率は、A社20%、B社30%で、B社の方が効率よく稼いでいるということになります。逆に、 A社は同じ営業利益を得るためにB社より経費が多くかかっていることを示します。

■売上高経常利益率……高いほどよい

売上高経常利益率(%)= 経常利益 ÷ 売上高 × 100

売上高に対する経常利益の割合を示す指標で、経営の総合的な利益率を知ることができます。

■売上高販管費率……低いほどよい

売上高販管費率(%)= 販管費 ÷ 売上高 × 100

売上高に対する販管費(変動費・固定費)の割合を示す指標で、数値が低いほど、販管費を抑えて効率的な経営を行っているということになります。

2.安全性分析

企業は借金を返済できなくなると倒産してしまいます。企業の借金返済能力を分析するのが安全性分析です。

資金調達の安定度や、資金調達と運用のバランスを分析することで支払能力を把握し、倒産の危険性の有無(会社の安全性)を判断することができます。収益性の高い企業は財務内容もよく、支払能力も高いのが一般ですが、利益を上げながら倒産するケースもあります。収益性を追求するあまり財務内容が悪化し、支払能力が低下してしまうと、債務(支払手形や借入金)の返済ができなくなるからです。こうした倒産を免れるには、資金繰りを管理する必要があります。

■流動比率……高いほどよい

流動比率(%)= 流動資産 ÷ 流動負債 × 100

短期的な返済能力を診断する指標の代表的なものが流動比率です。これは、1年以内に資金化できる「流動資産」と1年以内に返済しなければならない「流動負債」の割合を示す数値です。流動資産は「現金・預金」「受取手形」「売掛金」などの当座資産と「棚卸資産」を合計したもの、流動負債は「支払手形」「買掛金」「短期借入金」などの合計です。

A、B社とも流動資産を50億円ずつ持っているとします。これに対し、A社の流動負債が40億円(→流動比率125%)、B社の流動負債が25億円(→流動比率200%)であれば、B社の方が返済に余裕があります。つまり、流動比率が高いほど短期的支払能力が高い(手元の運転資金が多く、債務返済能力が高い)ということになります。

流動比率は200%以上が望ましいとされていますが、銀行との結びつきが強い日本の大企業では130%前後が多いそうです。また、中小企業の適正な流動性比率は130~150%と言われています。流動比率が100%を切ると、キャッシュフローがショートする可能性が大きく、新たな資金調達が必要となってきます

■当座比率……高いほどよい

当座比率(%)= 当座資産 ÷ 流動負債 × 100

流動資産のなかでもとくに換金性の高い資産「当座資産」の流動負債に対する割合を示し、企業の短期的な返済能力をより厳密に把握することができます。

■固定比率……低いほどよい

固定比率(%)= 固定資産 ÷ 自己資本 × 100

固定比率は自己資本に対する固定資産の割合を示します。100%以下が望ましいとされていますが、業種によって違いがあります。

■自己資本比率……高いほどよい

自己資本比率(%)= 自己資本 ÷ 総資本 × 100

自己資本比率は貸借対照表の「自己資本」(株主資本)を「総資本」(負債・純資産合計=資産合計)で割ったもので、総資本に占める自己資本の割合です。自己資本には返済義務がないため、自己資本比率が高ければ、資本調達の安全性が高いということになります。

自己資本比率は収益性にも大きく影響します。自己資本の割合が大きければ借入金の割合が小さいことになり、金利負担が少なくて済むからです。また、自己資本には、会社に最終的に残った利益が組み込まれていきますので、純利益が多い(=会社がもうかっている)と自己資本が増え、自己資本比率もさらに高くなっていきます。逆に、赤字が続き自己資本を食いつぶすと、債務超過の状態になります。

3.生産性分析

「生産性(Productivity)」 とは投入量と産出量の比率です。投入量に対して産出量の割合が大きいほど生産性が高いということになります。投入するものには、労働、資本、土地、原料、燃料、機械設備などがあります。産出量には、生産量、生産額、売上高、付加価値、GDP などがあります。つまり、経営資源(ヒト・モノ・カネ)をいかに効率的に使用して付加価値を生み出したか、従業員や設備などをいかに効率的に運用できているか、を見る分析です。

■労働生産性……大きいほどよい

労働生産性(円)= 付加価値額 ÷ 従業員数(2期平均) × 100

労働生産性は従業員1人当たりの付加価値額(=売上総利益とほぼ同じ)です。この数値が高いほど、効率よく利益を生み出していることになります。同業他社や自社の過去実績と比べて自社の適正値を把握し、それよりも数値が低ければ、商品力はもちろん、従業員の意欲・モチベーション、生産設備、販売システムなどを見直すことも必要です。

■資本生産性……大きいほどよい

資本生産性(円)= 付加価値額 ÷ 総資本 × 100

投下した資本に対して生み出された付加価値を見る指標です。

■労働分配率……低いほどよい

労働分配率(%)= 人件費 ÷ 付加価値額 × 100

労働分配率とは、付加価値に対する人件費の割合を示す指標です。会社が新たに生み出した価値のうちどれだけが人件費分配されたかを示し、財務分析の5大指標の一つとされます。

「付加価値」とは、企業が生産・販売等によって生み出した利益で、売上から変動費を引いた「限界利益」のことですが、ここでは損益計算書の「売上総利益」とほぼ同じと考えて差し支えありません。

人件費は、「給与」のほか、社会保険料や雇用保険料といった「法定福利費」や「厚生費」を加えた額です。この比率を知ることで人件費に問題がないかどうかが分かります。労働分配率が低いほど、労働力を効率的に活用している(=労働効率がよい)ということになります。労働分配率は通常40~60%程度だと言われていますが、業種や企業規模などによって異なります。

4.損益分岐点分析

事業の「採算性」を把握するには、事業の「損益分岐点」を知ることが大切です。損益分岐点とは、収支がゼロになる売上高(=採算ライン)のことです。これを算出するには、「変動費」「固定費」「変動費率」を把握する必要があります。「変動費」は売上高にともなって変動する原材料費や仕入れ商品の値段、「固定費」は売上高に関係なく発生する人件費や販売費などの費用です。

■損益分岐点売上高

損益分岐点 = 固定費 ÷ 限界利益率

※限界利益率(%)= 限界利益 ÷ 売上高 ×100
※限界利益 = 売上高 - 変動費

5.成長性分析

成長性分析では、企業の成長の勢いや今後の成長の可能性を調べます。売上や利益の増加率などから判断します。成長性をはかる指標には以下のようなものがあります。

■売上高増加率……高いほどよい

売上高増加率(%)= (当期売上高 - 前期売上高) ÷ 前期売上高 × 100

前期の売上高に対してどれほど増収があったかという数値が売上高増加率(増収率)です。企業の勢いを示しますが、企業規模が大きいほど売上高増加率は小さくなる傾向があります。同業他社や自社の過去実績との比較が有効です。

■利益増加率……高いほどよい

利益増加率(%)= (当期経常利益 - 前期経常利益) ÷ 前期経常利益 × 100

利益増加率のうち正常収益力の成長性、つまり企業の実力の伸びを示します。本業の成長性であれば「営業利益」を、長期に渡る成長性であれば「当期純利益」を用います。

■ 総資産増加率

総資産増加率 = 総資産増加額 ÷ 基準時点の総資産残高 × 100

企業の規模がどれだけ拡大しているかを表します。ただし、総資産は増加していても利益増加率の増加と一致しない場合は、不良債権や不良在庫の増加が原因である可能性があるので、利益増加率と併せて判断します。

■純資産増加率

純資産増加率 = 純資産増加額 ÷ 基準時点の純資産残高 × 100

純資産がどれだけ拡大しているかを表します。

■従業員増加率

従業員増加率 =(当期従業員数 - 前期従業員数)÷ 前期従業員数 × 100

従業員数の増加で企業が成長を判断します。ただし、設備の導入による省力化などにより、企業が成長していても従業員数が減ることもあります。

■一株当たり当期純利益(EPS)

一株当たり当期純利益(EPS)= 当期純利益 ÷普通株式の期中平均発行済株式数

企業の一株あたりの利益額を示すもので、当期純利益と普通株式の発行済株式数から計算されます。

→→成長性分析の様々な指標を紹介しました。過去5年分を比較したり、同業他社や同規模の企業と比べたりして自社の数値の評価を行うのが望ましいでしょう。

6.活動性分析

活動性分析では、売上を上げるために企業の資産を効率的に活用しているかどうかを見ます。

■総資本回転率

総資本回転率(回) =売上高 ÷ 総資本(当期・前期末平均)

資本の運用形態は、資金→固定資産→棚卸資産→売上債権と変化し、最後は資金に戻ります。これを資本の回転と言います。資本の回転率が高い(回転数が多い)ほど、同じ資本でより大きな売上を上げていることになります。「総資本回転率」は資本の運用効率をはかる指標です。売上高が総資本と同じなら1回転、総資本の2倍なら2回転となります。

■固定資産回転率

固定資産回転率(回) = 売上高 ÷ 固定資産(当期・前期末平均)

固定資産が有効活用されているかどうかを判断する指標です。固定資産はほとんどが商品や製品を作るために利用されます。固定資産回転率の数値が小さい場合、固定資産の割に売上高が少ないか無駄な固定資産がある可能性があります。

■棚卸資産回転率

棚卸資産回転率(回)= 売上高 ÷ 棚卸資産(当期・前期末平均)

棚卸資産回転率とは、棚卸資産の残高が適正かどうかをみる指標の一つで、棚卸資産と言う資本の運用形態が効率的に活用されているかどうかを判断します。棚卸資産回転率が低い場合、棚卸資産が多すぎることになります。逆に棚卸資産の回転率が高い場合、棚卸資産が少なすぎ、注文に十分対応できない可能性があります。

まとめ:経営分析の活用

今回は下記のような経営分析の指標を紹介しました。

【収益性分析】

総資本経常利益率(%)= 経常利益 ÷ 総資本 × 100
自己資本当期純利益率(%)= 当期純利益 ÷ 自己資本(株主総資本) × 100
売上高総利益率(%) = 売上総利益 ÷ 売上高 × 100
売上高営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
売上高経常利益率(%)= 経常利益 ÷ 売上高 × 100
売上高販管費率(%)= 販管費 ÷ 売上高 × 100

【安全性分析】

流動比率(%)= 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
当座比率(%)= 当座資産 ÷ 流動負債 × 100
固定比率(%)= 固定資産 ÷ 自己資本 × 100
自己資本比率(%)= 自己資本 ÷ 総資本 × 100

【生産性分析】

労働生産性(円)= 付加価値額 ÷ 従業員数(2期平均) × 100
資本生産性(円)= 付加価値額 ÷ 総資本 × 100
労働分配率(%)= 人件費 ÷ 付加価値額 × 100

【損益分岐点分析】

損益分岐点 = 固定費 ÷ 限界利益率

【成長性分析】

売上高増加率(%)= (当期売上高 - 前期売上高) ÷ 前期売上高 × 100
利益増加率(%)= (当期経常利益 - 前期経常利益) ÷ 前期経常利益 × 100
総資産増加率(%) = 総資産増加額 ÷ 基準時点の総資産残高 × 100
純資産増加率(%)= 純資産増加額 ÷ 基準時点の純資産残高 × 100
従業員増加率(%) =(当期従業員数 - 前期従業員数)÷ 前期従業員数 × 100
一株当たり当期純利益(EPS)= 当期純利益 ÷ 普通株式の期中平均発行済株式数

【活動性分析】

総資本回転率(回) =売上高 ÷ 総資本(当期・前期末平均)
固定資産回転率(回) = 売上高 ÷ 固定資産(2期平均)
棚卸資産回転率(回)= 売上高 ÷ 棚卸資産(2期平均)

これらの指標は、まず自社の経営分析に用います。 その場合、会社全体の収益力、財務体質、成長性などについて総合的に分析する場合と部門別・商品別などに分析する場合があります。また、取引先の経営状況を分析し、取引拡大や継続の安全性などを判断します。したがって、取引先の財務諸表を見る場合、まず短期の支払能力等を点検します。経営分析は、財務諸表の数値を用いて、企業の経営状況をさまざまな角度から数値化し、今後の改善に役立てる手法です。いわば経営状況を「見える化」する作業であり、自社の過去の状況や業界他社と数値を比べて問題点をチェックしたり、長所を把握して伸ばしたりするために活用しましょう。