事業承継の悩みベスト5

事業承継は、具体的には経営権・自社株式・事業用資産の承継といわれています。しかし、これらの承継の前に経営理念や経営ビジョンを現経営者と後継者が共有することが必要不可欠です。事業承継は理念の承継からということを忘れてはいけません。

また、京セラフィロソフィーのなかで、後継者は、「自分にはこういう目的、信念がある。それを貫くためには、自分は命を懸けて戦うのだ」という大義名分、信念をもつようにしていただきたい。とおっしゃっています。信念で裏打ちされた度胸を持って、経営を行えるような立派な経営理念を作り上げて、事業承継しなければなりません。

事業承継とは

事業承継とは、会社経営者が地位や株式や不動産を後継者に引き継がせることをいいます。
事業承継には経営者としての資質を育て受け継がせる経営承継と、相続税・贈与税を低く抑えて株式を次期経営者に引き継がせるという資産承継があります。

経営承継には後継者の育成などの会社の存続と発展とが課題になり、資産承継は相続財産の評価など相続対策が課題になります。
事業承継は、会社および従業員にとって重要な影響を及ぼすため、早期に事業承継計画たてて、円滑に会社の株式と事業用資産を後継者に引き継がなければなりません。

<1>経営権の承継
会社の経営上の決定権、財産についての処分権、人事権、従業員や取引先企業に対する影響力など経営者としての一切の権利の承継です。
これらの経営権は現経営者が長い年月をかけて作り上げてきたものなので、後継者が代表取締役社長に就任してとしても簡単に承継できるものではありません。

<2>株式の承継
自社の株式をスムーズに後継者へ承継させることは、後継者が経営を行う上で非常に大切なことです。自社株式が高額になっているときに後継者に株式を移転すると、多額の税金が課せられて経営が円滑に進みません。自社株式の承継には時間をかけて計画的に行うことで、後継者が十分な株式を持つことができます。

<3>事業資産の承継
事業資産を後継者の移転させるときに、特に注意したいのは、事業資産の一部が現経営者の個人所有となっている場合です。もしも現経営者が相続などで後継者以外の他の相続人が事業資産を取得した場合、会社の運営がスムーズに進まないこともあります。

事業承継の悩み

<1> 事業承継までの時間はどれくらい必要か

会社としてこれからも存続していけるにも関わらず、事業承継をどう進めるのかが決められなかったり、実情の認識ができていなかったりして、事業継承を先送りにしていると、後継者を確保できない状況に陥ることにもなりかねません。

事業継承の準備を早めに始めるためには、会社の体制を早い段階で整えておくことが大切です。そうすると、会社の業績や市場の状況を踏まえたうえで、ベストな時期を見計らって事業承継を実行できます。また、後継者の適正を見極め、じっくり育成していくことができます。

事業承継には準備、計画から実行まで、順次進んでいかなければならないため、実際のところどれくらいかかるかは、会社によって異なりますが、5年~10年要するものと考えられています。
経営者の平均引退年齢は70歳前後といいます。ならば60歳ごろには事業承継の準備をスタートしましょう。

■第一段階
事業承継に向けた準備の必要性を認識する。
■第二段階
経営状況や経営課題などを把握して課題の改善に向けた方向性を決める。
■第三段階
事業承継に向けた経営改善をして企業価値を高める。
■第四段階
親族や従業員承継の場合………後継者とともに承継時期を決めて事業承継計画を作る。
社外の第三者へ事業譲渡の場合………マッチングの実施
■第五段階
株式、事業用資産、経営権の承継を実行する。

<2> 後継者選びと教育

中小企業の約5割が会社を自分の代で終わろうと考えています。その主な理由が後継者問題です。

以前は経営者の子供や親族が事業を承継する会社が多くありました。今は、親族関係がない役員や従業員を後継者にする親族外承継や、社外の第三者に事業譲渡するM&Aの割合が増えています。その背景には子供の就職選択の自由を尊重する風潮や、自社の事業に対する不安などがあります。

■後継者選びのポイント
以前は、現経営者の長男が事業承継するケースが多くみられましたが、現在では会社の取り巻く環境の変化に適応しながら、会社を成長させていくことのできる人物を後継者として選ぶことが重要だと考えられています。

後継者の決定は現経営者に発言権や決定権があるうちに行うことが理想です。後継者を選ぶ視点は、

・経営ビジョン
・覚悟
・意欲
・実務能力

■後継者の教育
現経営者の思いや経営理念を含む知的資産を承継することが最も大切です。後継者や従業員は、現経営者と経営に対する思い・価値観・信条を共有しておくことで、事業承継後の経営も円滑になります。そのためには、後継者が次期経営者としての実務能力や心構えの習得にとり組む必要があります。後継者が経営を任される前に、社内で実務経験を積ませて現経営者のサポートをすることから始めましょう。

稲盛和夫氏は、塾長講話第114回の中で、「なるほど、この人が言っているのは本当だ。この人にならついていこう。」と思ってもらえるほどの人間に、経営者自身が成長しなければならない。そのためには必死に勉強して心を高めなければならない。
同時に経営理念には矛盾がなく、「なるほど、あなたの言うことは私も納得できる。そういう経営理念なら私もついていこう」と言わしめるような明確な大義名分作らなければならない。
そして親兄弟のようなプリミティブな人間関係をベースにしてレベルの高い経営理念を共有して承継し高めて続けていけば、人心をつかむことができる。と言われています。
これは、現経営者そして後継者の使命だといえるでしょう。

後継者の育成方法
・社内の各部門をローテーションさせて、会社全般の実務経験と知識を習得させる。
・責任のある地位に付けて経験を積ませることで、経営に対しての自覚を持たせる。
・経営者の指導のもと経営理念を引き継ぐ。
・社外で経験を積ませることで、人脈の形成や新しい経営手法の習得、客観的な自社の分析をする力を養う
・実務以外の学習経験を積ませることで、広い知識と視野をもたせる。
・特定のプロジェクトや部門、または子会社などの責任者としての経営を任せることで
経営者のとしての責任感を持たせる。

■後継者に必要なスキル、分析判断能力
・決算書の見方、財務に関する知識
・企業経営、事業承継に必要な税金の知識
・企業法務、人事、労務の知識
・コンプライアンス
・業界の動向を踏まえた経営環境の分析力
・経営戦略マーケティング分析力
・第二創業プランの策定力
・利益資金計画力
・リスクマネジメント

<3>古参社員をどうすればよいか

古参社員が他の社員からも非常に信頼されている場合は後継者の周りに味方がいないという状況も起こりかねません。
このように古参社員が後継者と対立して会社経営に支障をもたらすケースは比較的多くみられます。
特に現経営者が強烈なカリスマ性を持っていて、古参社員がそのカリスマ性に魅了されて尽力してきたという場合は、後継者に承継していく過程で、古参社員にその立ち位置について理解を得る必要があります。

現経営者は、古参社員の共感を得られるよう誠意をもった対策考える必要があります。
○ 後継者の選定過程、選定理由、後継者の経営理念、後継者の新経営体制を説明し、理解を求める
○ 新体制に伴う人事異動を行う。ここで古参社員に、実績や経験を十分配慮した人事異動であることを納得してもらえるように説明する。
○ 古参社員が高齢な場合は現経営者と一緒に引退を促す。場合によっては相当な待遇を考える。

人事異動や引退を促すとき、労働条件・退職条件などでトラブルがおきないように専門家に相談するとよいでしょう

<4>身内に承継するものがいない場合

家族内の事業承継は、相続による財産承継が重なっていることも多く、他の利害関係者の理解も得られやすいものです。
しかし、子供や親族が、全く関係のない分野で働いていて、事業に関心がない場合や、マネージメントに不向きな場合も少なくありません。そのような場合は会社全体の活力が下がって顧客が徐々に減ってしまうことは稀ではありません。

親族に後継者がいない場合
① 社内で事業承継……幹部役員やベテラン社員を後継者にする。
今までの体制を維持していける点では良いのですが、後継者には、金融機関との付き合い、株式を買い取るだけの資金力、借入金などを受け継ぐ個人的資産力・信用力が必要です。全社員を導いていける経営力のある最適な人材を見つけにくいという問題があります。

② 株式公開……株式を公開して上場企業となる。
社長だけでなく従業員もストックオプションなど大きな上場利益が入るかもしれません。社会的信用も上がるので企業活動がスムーズになります。しかし、上場は、非常にハードルが高く、維持するコストがかかってきます。トップダウンの経営のように迅速な経営がしにくくなることもあります。

③ 廃業……自主的に会社をたたむ。
事業承継をしないので、職を失う従業員や家族、取引先への影響があります。

④ M&A……第三者に会社を売却することで新しい資本体制の元で事業を続ける。
従業員の雇用を維持でき、株式公開より現実的で、取引先、同業会社、シナジー効果を求める異業種からの買い手が見つかることも多くあります。
大企業などに買収される場合は、従業員の勤労意欲の向上や福利厚生の充実、現社長の手元における現金が多いなどメリットも多くあります。ただし、事前にしっかり協議していないと旧体制を維持できなくなります。

<5>事業承継の税金

■相続税…後継者に課税
相続人が後継者1人で、相続財産が株式だけの場合は、自社株式の評価額によって相続税額が決まります。

■贈与税…後継者に課税
後継者が自社株式を承継するときに生前贈与で承継するときにかかるもので、相続制より高い税率です。このため生前承継するときは、自社株式の株価を下げて評価額を低く抑える対策をする必要があります。

■所得税…現経営者に課税
売買によって後継者に株式を譲渡するときにかかる譲渡所得税額は、非上場株式の場合相続税評価額を基に算出します。
相続税、贈与税と比較して税金は抑えられますが、後継者に買い取り資金があるかどうかという問題と、オーナー側に現金が増加してしまうという問題があります

□株価を下げるには
事業承継の成功は後継者がいかに多くの株式を承継できるかにかかっています。事業承継には納税や株の買い取りなどが発生するため株価が上がればより多くの資金が必要になります。

□事業承継税制
非上場株式等についての相続税および贈与税の納税猶予・免除制度。子や親族に限らず、親族外承継でも適用されます。
事業承継税制を適用すれば、後継者は自社株式にかかる相続税の80%を猶予。贈与の場合は自社株式にかかる贈与税の全額猶予。適用しなければ後継者は相続税の納付義務。

事業承継税制の適応条件
① 現経営者が会社代表であること。
② 後継者が相続開始の直前において対象会社の役員であること。贈与の場合は贈与の三年前から引き続き役員に就任していること。
③ 会社が中小対象企業であること。
④ 雇用の8割以上を5年間平均で維持すること。

□経営承継で利用できる金融支援制度
支援機関・・・株式会社日本政策金融公庫
経営承継円滑化法における都道府県知事の認定を前提に、後継者個人の株式取得資金の融資が可能。個人は通常、公庫の融資対象ではありませんが、特例的な措置です。

支援機関・・・信用保証協会
経営承継円滑化法における都道府県知事の認定を前提に、事業承継にかかる資金は通常の保証枠と別枠で信用保証を行うことが可能。

まとめ

現代、中小企業・小規模事業者の経営者のうち、65歳以上の経営者はおよそ4割を占め、今後数年で多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えるといわれています。
中小企業・小規模事業者の経営者が今後も事業を継続・発展させていくためには、次世代へ円滑に事業承継を行わなければなりません。
事業承継では、
後継者選びとその教育である“人の承継”
自社株式・事業用資産、債務や債券“資産の承継”
経営理念や取引先との人脈、技術技能といった“知的財産の承継”
を計画的に進めていかなければなりません。

自社株式の取得に伴う相続税や贈与税の負担、経営権の分散リスク、事業承継後の資金繰りなど、さまざまな課題を克服していかなければなりません。そのためには後継者確保を含む事業承継にむけた早めの準備が肝要です。

京セラフィロソフィーにもあるように、経営者には勇気、忍耐、努力」が必要ですが、中でも勇気は非常に重要です。たとえ暴力団が相手でも「自分の家族と従業員を守るためなら、私は命を捨てても構わないという気概で立ち向かえるためには信念が必要です。
信念に裏付けられた度胸は大きな勇気になります。経営者はそのためにも経営理念をつくり信念にまで高め、それを次の後継者に承継することが何より重要です。