事業承継で気をつけることはどんなことがありますか?

事業承継とは

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。中小企業にとって、社長が誰を後継者にして事業を引き継がせるのか(経営承継)は大変重要な課題です。また、「会社の経営権そのものである自社株を誰に引き継がせるか(所有承継)」「後継者教育をどう行うか(後継者教育)」「権限委譲の時期とやり方」「事業用資産の集中」「先代社長への配慮」「古参幹部・社員との付き合い方」という問題も大事です。こうした問題について、例えば、中小企業においては、従来は親族内承継が主流でしたが、最近はM&Aを含む親族外承継が主流になっています。

また、後継者は先代から人事・労務などの権限を早期に委譲してもらうことで、自身のブレーンとなる人材を採用・育成することが出来ます。本稿では、このような事業承継をめぐる様々な問題とその対処について紹介していきます。

全国に中小企業が430万社以上ありますが、年間約29万社が廃業しています。 中小企業庁のアンケート調査では、「自分の代で廃業したい」とする企業のうち24.4%は「適切な候補者が見当たらない」ことが第一の理由だと回答していています。

このことから、年間に廃業する約29万社のうち約7万社は、後継者がいないことが廃業の理由だと推定されます。事業承継には、上場や親族・社員へ承継、M&Aなどのパターンがあります。このうち、株式上場をするには様々な要件があり、どの社にも選択できる手段ではありません。また、最近ではM&Aが増えてきていますが、それ自体が大きなテーマなので本稿では詳細は省き、親族や従業員等に承継する場合に焦点を当てて述べていきます。

誰に事業を承継するのか

中小企業においては、従来は親族内承継が主流でしたが、最近はM&Aを含む親族外承継が主流になっています。

中小企業庁のデータによると、1990年代には親族内承継が約83%、親族外承継は約17%でしたが、最近では、親族内承継が約49%、M&Aを含む親族外承継が約51%と、割合が逆転しています。

背景には、
① 小企業にとっては長期不況で、子どもに継がせるほど事業に魅力がない
② 子どもの人生を束縛したくない
③ 自分の引退までに子どもへの経営者教育など承継手続きが完了できない
といった経営者の心境があります。

また、親が期待していても、子どもの側は継ぐ気がないというケースも増えているようです。

このため、M&Aも増えていますが、自社株を先代社長や親族が保有したまま社長の地位を親族ではない番頭格の役員・社員に譲るといったケースも増加しています。

それでは、親族や従業員等に承継する場合のメリット・デメリットについて見ておきましょう。

①親族に事業承継する場合
【メリット】
・役員・従業員や取引先など関係者から心情的に受け入れられやすい。
・後継者を早期に決定し、後継者教育等のために十分な準備期間を確保することも可能。
・相続等によって自社株等を後継者に移すことができ、所有と経営の分離を回避しやすい。
【デメリット】
・親族に適任者がいるとは限らない。
・相続人が複数いる場合、後継者の決定や経営権の集中が難しい。

②従業員等に事業承継する場合
【メリット】
・会社の内外から広く適任者を探すことができる。
・長期間勤務している社員に承継する場合、経営の一体性を保ちやすい。
【デメリット】
・親族に比べ事業の継続・発展への熱意が薄い場合がある。
・後継者に株式取得等の資金力がない場合が多い。
・個人債務保証の引き継ぎ等に問題が多い。

事業承継で気を付けること

親族や従業員等への事業承継の際に気を付けるべきことをいくつか挙げます。

(1)後継者への経営者教育
後継者が他社勤務を経験することは、自社に入社した後も役立ちます。他社の風土やノウハウ、規準を知ることが出来ますし、人脈も広がるからです。

自社に入社後は、現社長から後継者に現場経験をさせながら経営の基本や経営姿勢、事業運営のノウハウなどを引き継いでいきます。経営理念もしっかりと伝え、理念を協力して承継・発展させていく取り組みも重要です。

子会社や関連会社がある場合は、ある程度実力が備わった段階でその経営を任せてみるのも有効な経営者教育です。

(2)権限委譲
後継者にも起業に近いことを体験させるために権限委譲を早めに行うのが得策です。

現社長は「責任はとるが口を出さない」というスタンスで、権限と責任を早期に全面委譲します。

人事・労務と新規事業に関しては早期委譲が特に有効で、後継者のブレーンとなる人材の採用・育成を促進することが出来ます。人事権を完全委譲しない場合でも、将来の経営陣の構成を視野に入れて役員・社員の世代交代を準備することは必要です。また、新規事業には既存のノウハウが通用しない部分もあるだけに、起業に近い体験を積める可能性があります。

(3)先代と後継者が信頼関係を持ち、計画的に事業承継を進める
先代社長が後継者をバックアップし、信頼関係を強めることが大事です。

後継者も、仕事と私用の峻別、会社と家庭の区分など、公私を立て分けて行動することで社員にも認められ、社員がついてくる雰囲気が醸成されていきます。その上で、先代と後継者が事業承継計画を策定し、先代は後継者が取り組む経営改革をサポートします。このように、今後の事業環境を協力して整えていくことが大事です。

(4)その他
①他の相続人の遺留分に配慮……経営者が親族に事業承継をさせるということは、自社株や事業用資産の多くをその後継者に相続・贈与することになる場合も多く、他の相続人から遺留分を主張される可能性があります。遺留分とは、一定の条件を満たす相続人に対して最低限の遺産相続分を保証する相続割合のことで、相続人が請求を行えば、遺言書の内容に関わらず保障されます。これに対する配慮や対策が必要です。

②事業用資産の集中……親族への財産分与の際、自社株や事業用資産を後継者に集中させることが大事です。自社株については、後継者や後継者に友好的な株主に、株主総会で重要事項を決議するために必要な3分の2以上の議決権を集められると、後継者の社内運営が楽になります。

株式が分散している場合は、買取り等を可能な限り実施することが必要です。また、後継者が業績に貢献している場合、後継者への財産分与は相続・贈与に限らず、他の相続人の遺留分の問題が生じないよう、会社から相当の報酬を与える手法も有効です。

③従業員等への事業承継……役員・社員に事業承継する場合、先代社長や親族が保有している自社株や事業用資産を買い取る資金を後継者が用意できなかったり、金融機関との関係を維持できなかったりなど、資金にまつわる様々な問題が発生する場合があります。

オーナーと経営者を分けて事業を続けることも可能ですが、自社株の買い取りについては、MBO(経営陣による株式買い取り)も検討に値します。また、取引先の企業や金融機関から経営者を招く場合もありますが、社内に基盤がないため、従業員等の反発を避けるよう慎重に人選しなければなりません。

先代への配慮

先代への配慮はどのようにしたらよいのでしょうか。

事例を見てみましょう。製品の開発・販売を行う会社で、現社長が先代社長(父親)から引き継ぎました。現社長は大学卒業後、同業他社に約3年間勤務し、自社に入りました。自社の現場では、商品のデータベースもなく、受発注は従業員による人的管理が中心でした。

そこで現社長は受発注・在庫管理システムを3 年間かけて構築し、物流も改善しました。この間、社長の息子なだけに、幹部社員からの表だった反抗はありませんでしたが、古参社員など約10 人が辞めていきました。こうした過程で、先代とも意見がたびたび衝突しましたが、後継者は営業現場を小まめに回って顧客ニーズの把握に努め、経営計画策定・情報システム構築・社内人材の育成(週3 回の早朝勉強会など)などに取り組み、企業を成長させました。

ここから言えることは、①後継者は先代に敬意を払いつつも、必要な経営改革は最後まで遂行する意思と実行力も必要②ただし、顧客ニーズの把握など改革の根拠となる状況把握が必要③勉強会を通じての人材育成など改革を成果に結びつける仕組みづくりも大事――ということです。また、経営に関して先代と意見は異なっても、先代の努力や功績を尊重し、経営理念をある程度引き継ぐことも重要です。

古参社員にどのように接すればいいですか?

(1)古参社員への対応:新社長に求められること
事業承継した新社長が経営に乗り出したが、先代のブレーンだった役員と意見やそりが合わないなど、古参幹部・社員としっくりいかないことが多々あります。

こうした場合、役員会で方針を決定して強制的に従わせることも可能ですが、古参幹部等にはこれまでの貢献や社内人望もあるだけに、決裂のような状況は出来るだけ避けたいところです。

そこで、古参幹部等の実績やノウハウを、後継者がまずは認める必要があります。古くからの役員・社員には会社の業務に関する豊富な経験やノウハウと会社に貢献してきた実績があります。これらに対する心からの敬意がなければ、彼らが本当の意味で後継者に従うことはありません。

古参幹部や社員と価値観が共有できない場合でも、その実績や経験を認めた上で真摯に話し合う。それでもなお、古参幹部等が筋の通らない反対を繰り返す場合は、新経営陣に事情を話し、強権発動せざるを得ない場合もあります。

いずれにしろ、後継者はこうした問題への対処を人任せにしてはいけません。社員は後継者の人柄や手腕を注視しています。社員がついていきたいと思う経営者になるためには、大きな問題から逃げてはならないのです。

また、会社を経営するには、取引先(仕入先、顧客)や金融機関などとも付き合いますが、内部問題を解決できない姿を外部に見せるのも決していいことではありません。

(2)古参社員への対応:先代に求められること
一方、先代社長にも配慮・努力が求められます。後継者が経営しやすいように環境を整備するのは、一義的には先代の役割です。その一環で、先代は古参幹部・社員と後継者を上手くつながなくてはなりません。

後継者に実績がない場合、古参幹部等が後継者をすぐには認めない場合がありますが、先代から例えば「後継者を何とか支えてほしい」と依頼されれば、いきに感じる古参幹部等も少なくありません。手法は様々ですが、先代は古参幹部等に対し、後継者選定の過程や理由、新経営体制の中身、古参幹部等の今後の立ち位置などについて丁寧に説明し、理解してもらう必要があります。

こうした根回しなしに簡略なプロセスで承継すると、古参幹部等の反発を買い、新体制による経営に支障が生じる恐れがあります。特に、その古参幹部等の社内人望が厚い場合、後継者が孤立してしまう状況も考えられます。

古参幹部・社員に関して先代が取るべき対処としては、これ以外に、古参幹部等にまつわる人事異動を承継前にしてしまうことも考えられます。その場合、古参幹部等のこれまでの実績や経験に十分配慮した異動となるように工夫し、本人にもよく説明しなければなりません。

また、古参幹部等が高齢の場合は、先代と一緒に引退してもらうことも検討できます。この場合も、これまでの貢献に感謝し、相当の配慮を示さなければなりません。古参幹部等の中には実力以上の給与をもらっている人もいますが、一方で、何かと従来のやり方に固執したり、先代の手法と違うからというだけで後継者に反発したり、変革への新しい試みをつぶしたりする場合もあります。

後継者の社内運営に支障が大きいと予想される場合は、先代社長と一緒に辞めてもらうという選択肢も検討しなければなりません。それは先代の役割であり、間違っても後継社長にクビを切らせてはいけません。

これ以外に、古参幹部等に若手幹部と同様に勉強会や外部研修に参加してもらうのも有効です。特に外部研修は効果的で、外に出て世間一般の経営感覚や判断基準を知ると、認識が改まり、協力的になる可能性があります。

どのように社員をまとめればいいですか?

後継社長が社員の信頼を得るにはどうしたらよいのでしょうか。ここまで述べてきたことも振り返りながら簡単に列挙します。

(1)権限委譲
後継社長は、人事・労務や新規事業などに関して先代から早期に権限を委譲してもらうことで、自身のブレーンとなる人材の採用・育成を行うことが出来ます。完全な承継までにブレーンを作ることで、承継後も社内を取りまとめやすくなります。また、新規事業について早期に権限を譲り受けると、後継者自身がその事業に関して最も経験が深い人材の一人となり、今後の事業推進にあたりリーダーシップを発揮しやすくなります。

(2)公私峻別
後継社長は、仕事と私用の峻別、会社と家庭の区分など、公私を峻別して仕事に取り組む姿勢を示すことで、「単なる社長の息子」ではなく「しかるべき後継経営者」と認められ、社内での信頼が高まります。

(3)古参幹部・社員への対応
上述したので詳細は省きますが、先代から古参幹部・社員を引き継いだ場合の対処としては、彼らの実績やノウハウへの心からの敬意を持った上で、真摯に話し合って調和点を探すことが出発点です。最初から反対勢力と決めてかかってはいけません。味方に付けうまく活用すると心強い先輩達なのですから。

(4)問題から逃げない
古参幹部への対処もそうですが、大きな困難が生じた場合に、その問題を人任せにせず、自分で正面から向き合って乗り切ることです。その姿勢を社員も取引先も見ています。

(5)経営理念の浸透(京セラグループの事例)
後継社長の経営理念を社内に浸透させることも、経営陣と社員が一体になるために重要です。

1989年、京セラは米国の電子部品メーカー「AVX」を買収しました。世界8カ国に生産拠点と1万人近くの従業員を持つ大企業です。

京セラの稲盛和夫氏(現名誉会長)は「企業合併は結婚のようなものであり、心から信頼できる関係を築き上げることが最も大事」と考え、買収後もAVXの経営陣はそのままにし、京セラの考え方を共有しようとしました。

そこで、AVX社幹部との勉強会を開き、自分の経営哲学を語りました。「従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」「働く意義や目的が最も重要」などという稲盛氏のフィロソフィーに幹部らは当初は否定的で、「そのような考え方では、米国では成功できない」などと反論しました。

しかし、会を重ねるうちに幹部らは理解し、「これからはあなたの経営哲学をベースとしてAVX社を経営していきたい」と言うようになりました。同社は、買収後の6年間で売上3倍、利益6倍に成長しました。これは、M&Aの事例であり、経営者の変更はありませんが、オーナー会社が新子会社内に経営理念を浸透させることで、方針に従わせた事例です。経営理念の共有が社内掌握に有効に働くということが示され、事業承継における後継者が社内をまとめる際の参考にもなります。

※経営理念を社内にどう浸透させたらよいかについては、「フィロソフィーの必要性」や「フィロソフィー導入企業」をご参照ください。

まとめ

中小企業においては、従来は親族内承継が中心したが、最近は親族外承継が主流になっています。親族や従業員等に事業承継する場合の注意点を最後に箇条書きでまとめます。

・親族が事業承継……後継者は公私を立て分けて行動することで、社員に信頼される▽自社株や事業用資産を後継者に集中させることが大事。

・従業員等が事業承継……会社の内外から広く適任者を探すことが出来るが、後継者に自社株取得等の資金力がない場合が多い。これについては、MBO(経営陣による株式買い取り)という手法もある。

・後継者への経営者教育……他社での勤務経験は有用▽入社後、先代から経営理念や事業運営のノウハウなどを引き継ぐ▽子会社や関連会社がある場合は、経営を任せてみるのも有効。

・権限委譲……権限と責任を早期に全面委譲するのが有効。人事・労務や新規事業は早期委譲が特に有効。

・先代への配慮……後継者は先代に敬意を払いつつも、必要な改革は遂行する実行力も必要。ただし、顧客ニーズの把握など改革の根拠となる状況把握や成果を生み出す仕組みづくりも大事。

・古参社員への接し方……後継社長は古参幹部・社員の実績やノウハウに心から敬意を持つべき。先代は彼らに後継者選定の過程や理由、新経営体制の中身、古参幹部等の役割などについて丁寧に説明し、理解を得る。人事異動や先代と一緒に引退してもらうことも要検討。

→→ここ数年、事業承継の問題に迫られたり、近い将来の課題として事業承継を意識したりする例が、中小企業の間に急速に広まっています。問題点を的確に把握し、早め早めに手を打っていきたいですね。