経営課題にはどんなものが多いですか

一般社団法人「日本能率協会(JMA)」が2016 年9 月に企業経営者を対象に行った調査(回答:211 社)によると、「当面する経営課題」として最も多く挙げられたのが「収益性向上」で、「人材の強化」「売り上げ・シェア拡大(販売力の強化を含む)」「新製品・新サービス」がほぼ横並びで、「技術力・研究開発力の強化」も上位でした。

人材確保については、女性・シニアを含む多様な人材の活用や職場環境改善、省力化、IT活用、アウトソーシングなどが大切です。

販売力の強化では、日報を活用しながら上司と部下(営業マン)が顧客や商談プロセスなどの情報を共有し、具体的なノウハウを上司が部下に伝える手法があります。数値以外の評価指標を加えることも営業マンのモチベーションを向上させます。

また、技術力強化では、オープンイノベーションも検討に値します。ここでは、様々な経営課題の中で「人材の強化」「営業力・販売力の強化」「技術力・研究開発力の強化」と「販売価格引き下げ」について具体的な対処を紹介していきます。

【当面する経営課題】(2016年、日本能率協会調査)
①収益性向上/44.5 %
②人材の強化( 採用・育成・多様化への対応)/39.3%
③売り上げ・シェア拡大(販売力の強化を含む)/33.6%
④新製品・新サービス・ 新事業の開発/32.7 %
⑤事業基盤の強化・再編(M&A ・アライアンス・既存事業の選択と集中)/20.9%
⑥技術力・研究開発力の強化/19.4%
⑦顧客満足度の向上/16.1
⑧グローバル化 (グローバル経営)/13.3%
⑨品質向上(商品・サービス・技術)/12.3%
⑩財務体質強化/10.9%
⑩現場力の強化/10.9%
⑫適切なコーポレート・ ガバナンスの推進/7.1%
⑬ブランド力の向上/6.6%
⑬高コスト体質の改善/6.6%
⑮企業ミッション・ビジョン・バリューの浸透や見直し/5.7%

企業規模別の傾向としては、従業員数3,000 人以上の大手企業では、「収益性向上」「事業基盤の強化・再編」「グローバル化(グローバル経営)」「適切なコーポレート・ガバナンスの推進」などを経営課題に挙げた経営者が多く、従業員数300~3000 人の中堅企業や従業員数300 人未満の中小企業では、「人材の強化」「売り上げ・シェア拡大」を挙げた比率が高くなっています。

人材の強化(採用・育成・多様化への対応)

2017 年1 月に厚生労働省が発表した2016 年の有効求人倍率(平均)は1.36 倍(前年比0.16 ポイント増)で、7 年連続で増加し、1991 年以来25 年ぶりの高水準となりました。

こうした状況の中、2017年2 月に帝国データバンクが全国2 万3,804 社を対象に行った「人材確保に関する企業の意識調査」(有効回答企業数1 万82社)によると、70%超の企業が人材を確保するために何らかの取り組みを実施していました。それも大企業ほど実施している割合が高い傾向がありました。

1980 年代後半のバブル期や2000 年代半ばに続く「超・売り手市場」とされる現在、業界・職種・地方によっては人材確保に大きな困難を抱え、人材獲得を大きな経営課題ととらえる企業が増えています。

この調査によると、採用のための新たな取り組みを行っている企業は10,082社中7,281社ありました。取り組み内容で一番多かったのは「賃金体系の見直し」(46.6%)で、2 位の「就業制度の充実」の約2 倍でした。

他には、「採用情報の発信」「福利厚生制度の充実 」「自社採用ホームページの公開、リニューアル 」などが20%余りで並びました。また、企業が求める人材の人物像は「意欲的」(49.0%)、「コミュニケーション能力が高い」(38.6%)、「素直」(32.2%)などでした。

中小企業庁が2017年4月に発表した「2017年版中小企業白書」によると、規模の小さな中小企業で特に従業者が減っています。そこで、規模の小さな企業ほど、女性やシニアといった多様な人材を積極的に活用している傾向があります。

中核になる人材が不足すると、新事業展開や需要増への対応に大きな支障が出ます。多様な人材を活用できている企業は、時間外労働の削減や人間関係への配慮など中小企業ならではの柔軟性を活かした職場環境改善の取り組みを行っています。

例えば、埼玉県のある製菓会社では、出産・育児・介護等の事情による離職はほとんどありません。1人が3種類以上の業務を担当する「一人三役」の仕組みを全社員に適用しており、育児・介護支援制度や有給休暇を役職に関わらず気兼ねなく活用できるからです。

人材不足への対応としては、他に無駄なプロセスの見直し(省力化)やIT活用の強化、アウトソーシングなども有効です。

最後に、東京商工会議所が2010年に発表した「中小企業の人材確保・育成10カ条」を紹介します。東京商工会議所の産業人材育成委員会・専門委員会が、人材の確保・育成および評価・処遇、企業風土、組織構造といった観点から経営者が取り組む上で重要と思われるポイントを10カ条にまとめたものです。

人材の確保・育成に積極的に取り組んでいる中小企業へのアンケートやヒアリングをもとにまとめています。要点は次の通りです。

①働くことが楽しくなるような事業分野で勝負……大企業が競争力を発揮しにくい分野で事業展開(規模の勝負を避ける)▽中小企業ならではの事業分野を見つける▽消費者から必要とされていると実感できるような職場を作る。

②明確な方針を分かりやすく伝える……人材の採用・育成に関して明確な方針を持ち、頻繁には変えない▽理念や方針の見せ方や分かりやすさ、具体性を大切にし、毎日の仕事の中で組織全体に浸透させていく。

③トップが先頭に立って育てる……トップと一般従業員との距離が短いという中小企業の特徴を活かす▽トップの考えや行動を前面に押し出す▽方針が対立した時は、トップの責任で一つに絞る。

④採用ミスは致命傷……社長の考え方や企業文化に合わない人を無理に採用しない▽良いことだけを見せない。マイナス面を理解して入社した従業員が戦力になる▽独自の評価基準を持つ。

⑤人が育てば企業も育つ……企業の成長は従業員の成長についてくる。まず、従業員に学びの機会を与える▽無理かもしれないことを思い切って任せる。小さな成功体験が大きな飛躍につながる▽学びの機会を仕事に組み込む。新規事業への挑戦や従業員主催の勉強会は、人が育つ機会となる。

⑥部下の育成は仕事の一部……人材育成を社長や役員だけに任せず、全社的に取り組む。中間管理職以上には人材育成に責任を持たせる。

⑦制度や仕組みだけでは動かない……昇給・昇任の仕組みや制度を整備する。日常的なコミュニケーションや企業文化を踏まえて制度を運用することが重要。

⑧中小企業らしさに誇りを持つ……社長の個性や考え方を前面に出す。相性が合わないことを恐れず、合った時の強さを活かす▽家族的な雰囲気は中小企業らしさの要。中小企業らしさを求めて入社した従業員の期待を裏切らない▽運動会、花見、そして社員旅行ができることは素晴らしい。

⑨真似ずに学べ……中小企業は数が多く、人材育成の方法も多様だが、他社の成功事例をそのままには真似ない。企業文化が違うので失敗する場合もある。他社事例からヒントや気付きを得ることは大切である。

⑩経営者は教育者……人材に不満があるとすれば、それは人材に恵まれていないのではなく、人材を育てられないからである▽人材を育てるには時間も労力もかかる。しかも、すぐに効果は出ない▽教えることが好きか、従業員の成長を自分のことのように喜ぶことができるか。何かをできないからといって簡単に切り捨てない。

営業力・販売力の強化

日本政策金融公庫の「中小企業景況調査(2015年)」によると、中小企業の一番の経営課題は、「営業・販売力の強化」です。営業力の強化については、様々な意見があり、指南書も山のようにありますから、ここではいくつかのポイントを挙げるにとどめます。

理想の営業マン

営業力を高めるには、営業マンの強化(能力・やる気の向上、人員の拡充)が必要です。よい営業マンの条件として、例えば下記のような要件が考えられます。

・顧客が喜ぶこと、顧客の得になることを常に考える。
・常にプラスαの提供を心がける。
・自社サービス、商品について十分に理解している
・一方的に話すのではなく、顧客の話をよく聴く。
・話が簡潔でまとまりがよい。
・相手も知っていて当たり前とは思わない。

顧客の話を的確に聞いて顧客の課題を理解し、先方のニーズに沿った提案や行動ができる営業マンが理想的です。単にごり押しで成約にこぎつけようとするのではなく、顧客との信頼関係をまず構築し、顧客のニーズに寄り添った提案をしていくことが大事です。

営業管理面での工夫

しかし、このような優秀な営業マンが何人もいるわけではありません。どの営業マンにも優秀な営業マンの仕事ぶりやノウハウを見習ってほしいものですが、ノウハウを教え込んだところで、実行できる人は限られています。

そこで、上司と部下(営業マン)が常に情報を共有し、上司が具体的な行動を指示することが有効となります。顧客情報や商談プロセスなどの情報を共有し、成約に向けての具体的なノウハウを上司が部下に伝えるのです。

その際、部下に日々の報告書を作成させます。報告書には、顧客情報や商談プロセス、上司の指示・助言、本人(部下)の行動などを記します。こうした情報を共有し、上司が部下に有効な指示を出し、時には同行もすることで、組織的な営業活動ができます。ただ、これでは、営業マンが自分で考えることをしなくなる可能性があります。そこで、報告書に、自分で考えた予定や今後の方針も付記させるようにするとよいでしょう。

また、「顧客から頼りにされる営業マンになる」「顧客の課題をだれよりも理解する」など数字以外の目標や理念も設定し、営業マンを評価する指標に加えると、営業マンの意欲の維持につながります。さらに、折に触れて適度にほめることも、営業マンのモチベーションを向上させ、ひいては営業マンの能力向上につながります。

なお、稲盛和夫氏は著書「人を生かす」の中で、営業について、「営業には特殊な個性が必要で、注文を取れるに人は、特殊な才能があり、話術、話のネタ、熱心さも違う。策士的な、理念をバカにしたような人の方が注文を取れる。実直な人には、顧客を魅了する話術を学ばせ、営業能力のある人には、理念を叩き込んで堅実な社員に育てよ」という趣旨のことを説いています。

マーケティング等

営業コンサルティングに依頼するなどし、新しい見地から営業のノウハウを吸収したり、マーケティングを強化したりすることも検討に値します。

マーケティングにはリサーチもプロモーションも含まれます。マーケティング・リサーチ(市場調査)によって顧客のニーズを的確に把握し、商品・サービスの改善を行ったり、セールスの手法を改善したりすることができます。

また、プロモーションを強化することで顧客獲得の手法に多様性が生まれてきます。例えばWebサイトを改善し、ネット経由で商品・サービスの販売を増やす手法は既に広く浸透しています。

ネットだけでクロージングしない場合でも、消費者がWebサイトを見て問い合わせをしてきてくれれば、その後の営業活動が楽になります。顧客がインターネットで商品やサービスの内容を比較検討するケースが一般化しており、ネット活用のマーケティングは営業の重要な一部門となっています。

技術力・研究開発力の強化

中小企業庁が2011年に発表した「中小企業の技術力強化と自立化に向けて」という報告書は中小企業の技術戦略上の課題について次の三つを挙げています。

①取引構造のオープン化にともなう技術至上主義の限界……大企業が系列企業との間で構築したサプライチェーンの中で、下請け企業が開発した高度な技術成果は受注されることが前提となっていたが、系列構造が不安定化し、その前提が崩れた。そこで、技術開発成果の事業化の予見性が下がり、技術開発の出口戦略が難しくなった。

②技術の複雑化、開発のスピード重視、国内外の顧客の多種多様化、新興国とのコスト競争の激化

③従来型の産官学連携などの限界

こうした課題に対し、他社や外部組織と連携した技術開発や販路開拓、ソリューション提供企業への転換、グローバル企業への進化などの打開策が考えられます。外部との連携で注目すべきは、研究開発や新製品開発の際に、他社や公的施設、公的研究機関、大学などと積極的に連携するオープンイノベーションの手法です。

販路開拓力や経営力強化一般についても、身近な公的支援機関や金融機関等を活用することが出来ます。従来、企業は自社だけで研究者を抱え、技術開発を行ってきました(クローズトイノベーション)が、社外との連携を活用する企業が増えています。

また、グローバル企業に成長するためには、技術流出の防止に留意しながら海外に生産拠点を持ち、販路を広げたり生産コストを下げたりします。その際、進出先の国や地域に詳しい留学生や商社OBを即戦力として活用する手法もあります。また、現地向け製品の現地生産などによって技術的優位性と価格競争力を両立させることができます。

販売価格引き下げ

「○○社ではこういう値段なので、お宅もその値段以下にしてもらえませんか?」。取引先からこういう話を持ちかけられたら、断ることはなかなか難しいでしょう。

他社との競争が実際にあるのであれば、多くの場合、こうした要求はいずれ飲まなければなりません。取引先から価格交渉や値下げ要求を受ける状況の企業にとっては、①商品・サービスの価値を上げる(価格交渉や値下げ要求が出ないような商品・サービスを提供する)②その価値を取引先に対して情報発信し、適切に知らしめる--という努力が必要です。

以上は原則論です。しかし、例えば商品・サービスの市場が成長期に入ると、価格は一般的に横ばいか低下する傾向があります。競合他社も増え、生産・販売数増加でコストも下がるためです。このため、適切なタイミングでの価格引き下げやサービスの付加が必要になります。

また、商品が成熟期を迎えると、コスト低減が限界に達して企業間のコスト差は小さくなります。市場規模にも限界が生じ、少ないパイを取り合う構図になります。この時期では商品の差別化も困難となり、価格政策が競争の中心になります。

ただし、安易な安売り合戦ではなく、流通合理化や他の製品と組み合わせて売るなど、価格政策以外の工夫も必要です。さらに、商品・サービスの市場が衰退期に達すると、販売数量は著しく減ります。もし市場全体が衰退期に達すれば、市場からの撤退を検討しなければなりませんが、他社商品がまだ売れている場合は、自社商品の価格・品質などを再検討すべきです。この時期は、新商品の開発を急いだり、採算割れしない程度の価格を維持して在庫を処分し、近い将来の撤退に備えたりすることも必要です。

さて、値下げによる価格競争の際には、①メーカー直売や薄利多売の高回転率方式②流通経路の短縮、店舗の軽装備化など流通コスト削減③海外生産など生産コスト引き下げ--などを検討することも大切です。値下げするといっても、採算のとれない価格で売ったり、赤字受注したりすることは、極力回避しなければなりません。

値下げの基本的な限界点は、製品1個あたりの製造原価(あるいは商品の仕入れ原価)に一般管理費・販売費を加えた総原価です。この数字を把握した上で、取引先からの値下げ要求によって損益分岐点を下回りそうな場合、どう対処すべきかが悩みどころです。

損益分岐点を下回ると赤字受注なので、基本的には応じることはできませんが、代わりの受注がないのであれば、稼働率が下がり、固定費が無駄になるからです。

価格政策には様々な観点や理論があります。市場環境や商品力などに応じて値下げを迫られることもありますが、基本的には値下げを避ける経営が健全であり、それを支える製品・サービスの価値向上や差別化を常に追求していくことが最も大事です。

ちなみに、稲盛和夫氏は「値決めは経営だ」と述べています。いわく「値決めにあたっては、市場で競争するのですから、市場価格より若干安いという価格になるはずです。市場価格より大きく下げて利幅を少なくして大量に売るのか、それとも市場価格よりあまり下げないで利幅を多くして少量を売るのか、その価格設定は無段階でいくらでもあるはずです」「つまり、量と利幅との積の極大値を求めるわけですが、これには様々なファクターが入り、簡単に解くことはできないのです。どれほどの利幅をとったときに、どれだけの量が売れるのかを予想するのは、非常に難しいものです。

この値決めは、経営を大きく左右するだけに、私はトップ自らが行うべきものと考えています。そうすると、どの値を取るかということは、トップが持っている哲学に起因してきます。強引な人は、強引なところで値段を決めるし、気の弱い人は気の弱いところで値段を決めるでしょう。もし値決めによって会社の業績が悪くなるとすれば、それは経営者の器の問題であり、心の問題であり、経営者の持つ貧困な哲学のなせる業だと私は思います」とのことです。

まとめ

経営者に対する日本能率協会(JMA)の調査で「当面する経営課題」として最も多く挙げられたのは「収益性向上」で、「人材の強化( 採用・育成・多様化への対応)」「売り上げ・シェア拡大(販売力の強化を含む)」「技術力・研究開発力の強化」などが続きました。

「人材の強化」については、女性やシニアといった多様な人材の積極活用や、時間外労働削減など職場環境改善の取り組み、無駄なプロセスの見直し(省力化)、IT活用の強化、アウトソーシングなどが有効です。

「販売力の強化」では、上司と部下(営業マン)が顧客情報や商談プロセスなどの情報を共有し、成約するための具体的なノウハウを上司が部下に伝える組織的な営業手法が有効です。これには、日々の報告書が重要な役割を果たします。また、「顧客から頼りにされる営業マンになる」など数字以外の評価指標を加えたり、折に触れて営業マンをほめたりすることで、営業マンのモチベーションを向上させます。営業力・販売力の強化にはマーケティングの強化も重要です。

「技術力強化」には、社外との提携を活用するオープンイノベーションを導入する企業が増えています。このように、様々な経営課題に対し新しい取り組みや工夫をすることが大事です。中小企業の強みを生かした柔軟かつ機敏な対応が求められます。