フィロソフィーを導入している企業を教えてください

フィロソフィーを導入している企業とそうでない企業があります。
フィロソフィーはなぜ大切なのか?フィロソフィーを社内に浸透させた企業が業績を伸ばすことができるのはなぜなのか?順を追って説明します。

なぜ、フィロソフィーを経営に導入するのか?

経営の根幹にある思いが「フィロソフィー」や「経営理念(企業理念)」で、会社がこれまでどのような道のりをたどり、今後何を目指していくのか、これから先どのような企業でありたいのかといった創業者や経営者の目標や思いが込められます。

これに対し、「経営戦略」は、経営理念実現に向けての当面の目標とそれを達成するためのシナリオであり、従業員の努力を結果に結びつけていくための方程式です。経営戦略の下に個々の事業戦略があり、さらに事業戦略に沿って個別施策(経営戦術)があります。

優れた経営理念を策定して従業員に浸透させれば、経営戦略や事業戦略を立てる場合でも、それを個別の事業施策で実行していく過程でも、フィロソフィーが上位の価値基準として大局的判断の物差しとなり、従業員を同じ方向性に束ねていくことができます。

また、人間関係や周囲への配慮といった人格的な目標も理念に盛り込むと、職場環境がよくなるケースもあります。品質やサービスに関するメッセージを盛り込むと、従業員の意識が向上し、品質・サービスが実際に良くなることもあります。

経営破綻した日本航空に「JALフィロソフィー」を導入し、見事に再建させた稲盛和夫氏にとって「フィロソフィー」とは自身の創業した京セラを育てた経営哲学であり、自分が正しいと信じる生き方のことです。

稲盛氏は自信の信条を従業員にも浸透させることで会社を発展させたり、業績が低迷していた会社を復活させたりしてきました。

フィロソフィーを掲げる対外的な意義は、自社の姿勢や方針を対外に示し、企業のイメージやブランド力の形成につなげることです。また、社内的には、フィロソフィーを経営陣や従業員に浸透させることで、目指す方向や価値観をみんなで共有し、同じ方向を向いて仕事をすることができます。

例えば、新しい経営戦略が現場の慣習になじまない場合や、セクション間で判断や利害が異なる場合にも、フィロソフィーを基準として調和点を見出し、変革を進めていくことができます。そして、機敏に柔軟に変革できる組織は、時代に取り残されず、新しい経営環境にも常に柔軟に対応していくことができるのです。

導入している企業の経営はどうですか?

(1)平和堂

1957年創業の「平和堂」(本社・滋賀県彦根市)は近畿・北陸・中部に百数十店を展開するスーパーで、2017年2月期の連結売上は約4375億円、経常利益は約156億円です。夏原平和(ひらかず)社長は、創業者である父を1989年に継ぐ前から盛友塾(現・盛和塾)に入って稲盛和夫氏に師事し、「経営理念」「思い」が大切であることや部門別採算によって経営数字をすべて把握することを学んでいました。

2000年ごろからカルフールなど外資系大型スーパーの参入や先行き不安による個人消費の低迷もあり、業界の経営環境が悪化する中、地域密着型の店舗展開や本業中心の事業拡大などによって厳しい状況を乗り越えました。

2008年のリーマンショック後は、3期連続で売上が下がりましたが、夏原社長は課題を常に頭の中に置いて前向きに対策を考え続けることで、売り場構成の改良など対処を見いだし、回復基調に転じました。

夏原社長は、店の運営にはオペレーションやサービスの質が重要であり、人を育てずに店だけ増やしてもうまくいかないと考えています。

地域の顧客の生活を自分たちが支えていくのだという使命感を持って顧客と接するリーダーやスタッフを育てながら店舗を展開していくべきだという信念です。そして、100年企業を目指すために必要なものとして、「お客様に喜んで頂ける最高のサービスを提供できる会社になる」「地域の人たちに平和堂で買いものをするのが楽しいと思ってもらえるようになる」という条件を掲げています。

夏原社長は、高い経営目標を達成するためには、経営者と全従業員がフィロソフィーや経営理念、思い、といったものを共有する必要があると考え、社長に就任すると、稲盛氏から教わったフィロソフィーを幹部や社員に伝えました。

また、創業者の言葉や考えを冊子にまとめて自社の経営理念として社員に示し、理念の実践のために「平和堂社員の行動指針百撰」を作成しました。

稲盛氏のフィロソフィーに関しては、盛和塾の機関誌を幹部や店長にも読ませたり、「稲盛和夫実践経営講座」のビデオとテキストで幹部社員対象の勉強会(階級別に2日間ずつ)を開いたりしました。

さらに、売り場主任に対しても、約100人ずつ10回に分けて研修を行い、社長自身が講義するなどフィロソフィーの浸透に努めてきました。

稲盛氏の著書「生き方」を約8000人のパート従業員に無償で支給し、店長や上司にも内容の解説を促すことで、平和堂が依拠する経営哲学を理解してもらえるように努力しています。新入社員の入社式などでも夏原社長がフィロソフィーについて直接訓示しているそうです。

また、店長会議等で社長が話す内容を毎月の社内報の「社長の言葉」というコーナーで紹介し、パートやアルバイトといった現場を支える人たちにも経営者の考え方や思いが分かりやすく伝わるように心がけています。

平和堂はこのように、経営理念や経営者の思いを全従業員に浸透させることで、地域密着や人材育成と言った経営戦略に従業員が一体となって取り組み、会社の成長を支えています。

店長クラス以上には経営講義も施し、幹部社員たちが会社の損益や自分の担当部署の数字に関心を持ち、自分で課題を見つけ出して改善していく傾向が生まれているそうです。

※出展[盛和塾]機関紙74号

(2)福島工業

1951年創業の福島工業(本社・大阪市)は、業務用冷蔵庫や製氷機、冷凍冷蔵ショーケースの製造・販売・施工・メンテナンスをする会社で、2017年3月期の連結売上が802億円に達しています。

創業者の息子である福島裕社長が入社した1975年の売上は約20億円でしたが、福島社長は当時の社長と一緒に会社を建て直し、92年に社長を継いだ時には年商約190億円に成長させていました。福島社長は社長を引き継ぐと、企業理念(経営理念、フィロソフィー)を次々に打ち立て、年商をさらに増大させていきました。

同社の企業理念は「幸せ四原則」で、下記の4項目から成ります。

第1項:生活者の幸せ……わたしたちは、環境・安全・安心をテーマに、お客様と協働し、生活者の「幸せ」に寄与することを基本使命とします。

第2項:お客様の幸せ……わたしたちは、独自の技術とシステムにより、フードビジネスに新しい価値を創造し、お客様の「幸せ」に貢献することを基本使命とします。

第3項:社員の幸せ……わたしたちは、自己責任能力を高め、自身と社業の成長を通じて、物心両面の「幸せ」を追求することを基本使命とします。

第4項:株主・お取引先の幸せ……わたしたちは、常に業績向上に努め、株主やお取引先に「幸せ」を提供することを基本使命とします。

福島社長が社長就任後、最初に導入した企業理念は「お客様の幸せ」(理念2)でした。また、94年に盛和塾に入ると、塾長の稲盛氏が打ち立てた京セラの経営理念の一つである「物心両面の幸福」にならい、「社員の幸せ」(理念3)を盛り込みました。

さらに、リーダー的な社員達の協力で株式公開を実現すると、稲盛塾長の教えである「自らを追い込む経営」を実践してさらに業績を伸ばし、店頭公開から大証、東証2部、東証1部とステージを上げていきました。こうして株主への責任も格段に重くなり、「株主・お取引先の幸せ」(理念4)を加えるに至ります。

一つ目の企業理念である「生活者の幸せ」は2003年、盛和塾の研修中に、スーパー用純水自動販売機や急速冷却機などの自社商品が最終的には生活者の役に立っていることに気付き、これからも仕事を通じて生活者(=社会)に貢献していこうと考え、企業理念の筆頭に位置付けました。この理念は従業員の励みとなり、会社の活力を支える精神的土台となっているようです。

同社はこうした理念・フィロソフィーのもとに、①全員参加による営業力強化②新製品開発に全力③徹底した原価引き下げ④生産性維持といった方針で苦境の時期も乗り切りました。

また、福島社長の友人が亡くなったことに伴いその友人が経営していた会社を引き継いだ際も、経営はその会社の専務を社長に昇任させて任せ、自身は企業理念・フィロソフィーをその会社の従業員に説明することに力を入れました。この会社はグループに編入後、しっかりと業績を伸ばし、連結での増収増益に貢献するようになりました。
※出展[盛和塾]機関紙102号

まとめ

「フィロソフィー」や「経営理念」には経営者の目標や思いが込められます。経営戦略は経営理念を実現させ、従業員の努力を結果に結びつけていくための方程式で、経営戦略の下に個々の事業戦略があります。企業理念を従業員に浸透させれば、経営戦略や事業戦略を実行する際に社内で意見衝突などがあってもフィロソフィーが物差しとなって調和機能を発揮し、社内を同じ方向に収束させていくことができます。

また、フィロソフィーを掲げることで、自社の姿勢や方針を対外に示し、企業イメージやブランド力の形成に役立ちます。今回例に挙げた平和堂や福島工業などは優れた経営理念を持ち、その基盤の上に的確な経営戦略を掲げて業績の拡大に成功してきました。技術論の前にまずは精神基盤の確立がビジネスの世界でも肝要と言えるのかも知れません。