経営戦略は企業に必要ですか?

はじめに

自社の内部環境(人材、財務状況、営業力、設備など)と外部環境(市場動向や社会状況など)を把握して強み・弱みなども分析した上で、経営理念の実現のために達成していくべき目標を立て、そのための道筋を描くことが経営戦略の策定です。

経営戦略とは、経営理念で示す自社の理想と現状とのギャップを埋めていくシナリオです。

右肩上がりの経済成長は遠い過去のものとなり、企業間競争はますます激しくなり、さらに顧客のニーズも多様化し、はやりすたりの変化も激しくなっています。

中小企業においては、大企業を頂点とする下請け分業構造が崩れ、特に厳しい経営環境です。こうした環境のもとで競争優位を確保し続けるには、生き残りをかけた経営戦略が必要です。

経営戦略は、全社戦略・事業戦略・機能戦略・その他の戦略の4つに大別されます。ここでは、経営戦略の必要性や策定の手順について紹介します。

経営戦略は企業に必要ですか?

高度経済成長期やバブル経済など日本経済が右肩上がりの時代には、現状維持や前例踏襲の経営手法であっても、市場規模が拡大していたので、売上を維持・増大させ事業を継続していくことが可能でした。

しかし、バブル崩壊やリーマンショックなどを経て、国内経済の実質的な長期停滞が続いています。「アベノミクス」によって優良企業の内部留保は増えましたが、こうした企業の得た果実(もうけ)が下部層にもしたたたり落ちて皆が潤うとする「トリクルダウン」現象は起こらず、アベノミクスの恩恵が中小企業にあまねく行き渡っているとは言えません。

勝ち組・負け組の格差は開き、企業に経営戦略がなければ、事業を長期継続することは難しい状況になっています。

このような時代に、従来のやり方を効率化するだけでは競争に勝てません。また、既存事業の拡大だけでも限界があります。事業や商品にも寿命があるからです。

一つの事業で食べていけるのは平均数十年、一説には30年とも言われ、会社は設立30年で衰退するという「会社30年説」の論拠になっています。新規事業にはリスクが伴うので、従来の方向性に改善を重ねる手法が選択されがちです。経済が右肩上がりの時代なら、それでも通用しましたが、多くの中小企業にとっては厳しい経営環境なので、現状維持やその延長では先細りしていきます。

稲盛和夫氏も「企業は、改革し続けなければ、現状すら維持できない」と述べています。そこで、環境に合わせて企業を変えていかなければならず、そのために経営戦略が必要です。

経営戦略と経営戦術との違いは?

それでは、「経営戦略」とは何であり、「経営戦術」とどう違うのでしょうか。

「経営戦略」とは、企業が持続的に競争に勝っていくための基本的な考え方であり、企業の方向性を示すものです。「何をすればもうかるのか」という考え方を明らかにし、企業が進んでいく方向性を示します。

一方、「経営戦術」は経営方針を実現していく個別具体的な施策であり、業務効率化など今までの延長線上でやり方を改善することも含まれます。

経営戦術だけでは、従業員が一つの方向に進んでいくことができません。従業員の方向がバラバラだと、新しいことに取り組もうとしても、社内のあちこちから抵抗勢力が現れて妨害され、計画が挫折したり、無難なものに修正させられたりします。これでは企業変革は実現できず、現状維持に落ち着いてしまいます。したがって、経営戦術を考える前に経営戦略(企業の進むべき道)を考える必要があります。

経営戦略は、既存事業の縮小・撤退、事業構成の見直し、新規事業の導入など、企業の進んでいく方向性を大枠で示します。「どうすればもうかるか」「何をすればもうかるのか」「いかに賢く稼ぐか」といった観点で、従業員の努力を利益増大や成長持続という結果に結びつけていくシナリオを描きます。努力を結果に変換するビジネスモデルが経営戦略の根幹となります。

そして、成長している会社では、経営者の方針を各部署や社員がそれぞれの担当業務の内容に沿って翻訳し、具体的な行動に移しています。つまり、経営戦略を経営戦術に落とし込んでいます。その際、経営戦略と経営戦術に整合性があり、連携していることが大切です。

経営の根幹にすえるものが「経営理念」で、会社がこれまでどのような道のりをたどり、今後何を目指していくのか、これから先どのような企業でありたいのかという、経営者の目標や思いが込められます。これに対し、「経営戦略」は、経営理念実現に向けての当面の目標とそれを達成するためのシナリオであり、従業員の努力を結果に結びつけていくための方程式です。経営戦略の下に個々の事業戦略があり、さらに事業戦略に沿って個別施策(経営戦術)があります。

経営戦略の種類

経営戦略にはどのようなものがあるのでしょうか。経営戦略は全社戦略・事業戦略・機能戦略・その他の戦略の4つに大別されます。

・全社戦略……複数の事業を行う企業が、企業の経営資源(予算・人材・設備など)を各事業にどう配分するかという戦略です。
・事業戦略……事業の種類ごとに立てる戦略を事業戦略または競争戦略と呼びます。
・機能別戦略……営業、マーケティング、生産、財務、人事などの機能ごとに立てる戦略(営業戦略、マーケティング戦略など)を機能別戦略と呼びます。
•それ以外の戦略……信用回復政策、成長戦略、売上倍増戦略、IT戦略など、特定の目的や方針を実現するための戦略もあります。

経営戦略の立て方

経営戦略を立てるには次のような手順を踏みます。

・内部環境把握……自社にどのような経営資源(人材、財務力、設備、生産力、営業力、技術力、組織風土など)があるか、それぞれどのような内容や状況かを把握します。

・外部環境把握……自社を取り巻く経済環境を分析します。業界状況や政治・社会の状況、競合他社の動向、技術革新の動向、市場動向など、今後の自社の経営に影響しそうな外部要因を幅広く把握します。

・分析……内外の環境を把握したら、そこから強み・弱み・機会・脅威を抽出するなど、分類や評価付けを行います。「SWOT分析」は、事柄を強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)などに分類する分析で、多くの企業で経営戦略を立てる際に用いられています。このほか「3C4P分析」「ポジショニングマップ策定」「ファイブフォース分析」などもあります。

・戦略策定……内外の環境把握と分析によって、理想(経営理念)と現状とのギャップが把握できます。そこで、このギャップを埋める経営目標を設定します。経営目標は財務的な数値目標に限らず、業務効率化やコストカット、人事制度の見直しなど、企業によって様々でしょう。これらの目標を達成するための道筋(何をどういう手順で実行するか)を考えます。すると、人員配置や予算配分、設備投資など、各分野でだれが何をいつまでに行えばよいかが明確になり、経営戦略が完成していきます。すぐに取り組める課題とそうでないものがありますので、長期(5年など)、中期(3年など)、短期(単年度)などに分けて戦略を立てる場合もあります。経営戦略を立てる際には、①経営理念の実現につながる経営目標を設定すること②経営目標の達成に向けた道筋を示すシナリオとなり、従業員の努力を成果につなげる方程式となるよう意識すること――が大切です。

経理戦略の実行

経営戦略を実行するには、まず従業員に経営戦略を周知し、理解させなければなりません。

達成すべき目標や道筋、その意味などを十分に理解しないと、戦略を現場レベルで実行していく従業員の意識が高まらないからです。稲盛和夫氏も「全従業員の参与がなければ良い経営は実現できない」と説いておられます。

従業員たちに経営戦略の実行に能動的に関与してもらうには、何のためにそれをしなければならないのか、それを実行すると会社がどう変わるのかを、彼らに理解させる努力が必要です。

次に、経営戦略の実行に必要な経営資源(人材、予算、設備など)を適正に配分します。組織改編を伴う場合もあります。経営戦略を実行するための指揮命令系統を確立したり、プロジェクト・チームを立ち上げたりし、権限と責任をグループやメンバーに割り当てること手順もあります。その際、大まかな目標だけでなく、だれ(どの組織)がいつまでに何をするかを具体的に設定し、達成できたかどうかを評価しやすいようにしておくと効果的です。

経営戦略が有効でないことが判明したり、状況変化などが生じた場合には、必要に応じて軌道修正したり、場合によっては経営戦略を再策定したりします。他社動向や市場動向の変化などで経済環境は年々変わるので、ビジネスモデルも長期的に通用するとは限りません。一度確立したビジネスモデルも3年に一度くらいは見直しましょう。

戦略がある会社とない会社の違いは?

経営者が従業員に権限委譲していない会社では、経営者が細かい指示をしなければ部下が動きません。

部下は上司にいちいち伺いを立てないと判断ができず、日常的なトラブルの解決にまで経営者が判断・指示を求められるケースが多々あります。これでは、経営者が細事に忙殺され、経営者本来の仕事に割く時間がありません。

経営者が従業員に権限委譲できない大きな要因の一つとして、中長期での明確な指針である「経営戦略」が確立していないことがあります。

経営戦略があいまいな会社では、従業員は目の前の作業に注意・関心が集中し、新しい提案や取り組みを拒絶しがちです。日常業務だけで手一杯になり、それをこなすだけで満足し、周囲の状況や会社を取り巻く経済環境、会社の将来などに十分に関心を持てなくなります。

まとめ

従来業務の繰り返しや前例踏襲の偏重から脱却し、会社の方向性や体質を環境に応じて柔軟に変えていくには、しかるべき経営戦略を策定し社員に浸透させることが必要です。経営の根幹に「経営理念」があり、会社が何を目指すのか、これから先どんな企業でありたいのかという、経営者の思いが込められています。一方、「経営戦略」とは、経営理念と現状とのギャップを埋めるシナリオであり、従業員の努力を利益や成長という結果に結びつけるための方程式です。昨今の経済情勢のもとでは、現状維持は先細りにつながります。厳しい経営環境のもとで競争優位を保っていくためには、考え抜かれた経営戦略が必要です。